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WEB MAG #37 “木”という素材

木は、古くから人の暮らしを支えてきた素材です。
住まいの柱や床、家具、道具、紙。かつては、船や農具、燃料としても、人の暮らしを支えてきました。

こうして並べてみると、木が実に幅広い場面で使われてきたことに気づきます。
もちろん、人類が使ってきた素材は木だけではありません。
地域によっては石や土が主要な建築材料になり、金属が道具の主役になった時代もありました。

それでも木は、世界中で長く使われ続けてきた素材のひとつです。なぜか。

理由のひとつは、手に入りやすかったこと。
そしてもうひとつは、素材として非常にバランスが良かったことです。適度な強さがあり、加工しやすく、比較的軽い。

また、木のおもしろさは、そうした“便利さ”だけではありません。
鉄やプラスチックのような工業製品とは違い、木はもともと生きていた素材です。一つとして同じものがなく、湿気によってわずかに伸び縮みし、ときには反ったり、割れたりもする。

扱いにくささえある素材なのに、人はなぜ、今もなお木を使い続けているのか。
今回は、そんな「木という素材」そのものに目を向けてみます。


日本は木、ヨーロッパは石    素材の選択は、環境に左右される

世界を見渡すと、建築に使われる素材には地域ごとの違いがあります。

その土地の自然環境や気候、手に入りやすい資源によって、選ばれてきた素材は大きく異なります。
分かりやすい例が、日本とヨーロッパです。

日本:木造建築が発達した理由

日本では、古くから木造建築が発達してきました。
神社仏閣や古民家などを思い浮かべると、そのイメージは分かりやすいかもしれません。
その背景には、いくつかの理由があります。

高温多湿な気候
湿気の多い日本では、風通しを意識した住まいづくりが発達しました。木は加工しやすく、そうした建築にも向いていました。

森林が多く、木材を手に入れやすかった
日本は国土の約3分の2が森林ともいわれる森林大国。建築材料として木が身近な存在でした。

地震が多い
石のような硬く重い素材に比べ、木は軽く、しなやかさがあります。揺れの力を受け流しやすく、日本の自然条件に合っていたと考えられます。

ヨーロッパ:石造建築が多い理由

一方、ヨーロッパでは石造りの建物が多く見られます。歴史ある教会や城、石畳の街並みなどがその代表です。
こちらにも、自然環境ならではの理由があります。

耐久性の高さ
石は重く加工に手間がかかる一方で、非常に丈夫。長く残る建築物に適していました。

石材が手に入りやすかった
地域によっては良質な石材が豊富に採れ、建築材料として使いやすい環境がありました。

乾燥した気候
日本ほど湿気が高くない地域も多く、石造建築が傷みにくい条件がありました。


木は高性能な素材である

木が長く使われてきた理由は、「そこにあったから」だけではありません。素材として見ても、木はとても優秀なのです。

まず特徴的なのが、軽さと強さのバランス
石や金属に比べて軽く、運びやすい。大型機械のない時代、この違いはとても大きかったはずです。

しかも、軽いだけではありません。
木は、重さあたりの強さで見ると、非常に優れた素材だといわれています。専門的には「比強度(ひきょうど)」と呼ばれ、同じ重さで比較すると、金属に負けない性能を持つ場合もあります。

さらに、熱を伝えにくいという特徴もあります。
たとえば、冬に木の床を裸足で歩くのと、金属の手すりに触れるのとでは、感じる冷たさがまったく違います。これは、木が熱を伝えにくい素材だからです。住宅で木が使われてきた背景には、こうした性質も関係しています。

そしてもうひとつは、加工のしやすさ
石のように削るのに大きな労力が必要なわけでもなく、金属のように高温で加工する必要もありません。
切る、削る、組む。比較的シンプルな方法で扱える素材でした。

軽くて、強くて、熱を伝えにくく、加工しやすい。

こうして見ると、木が古くから選ばれてきたのも、なんとなく納得できる気がします。

特徴
軽さ×
強さ
断熱性×
加工性×


均一でないからこそ、良い

木の魅力は、高性能なだけではありません。むしろ、工業製品のように“均一ではない”ことこそ、木という素材の大きな特徴です。

たとえば、同じ樹種の木材でも、木目の出方や色合いは一つひとつ異なります。
家具売り場で木製のテーブルを見比べると、まったく同じ表情のものがほとんどないことに気づくかもしれません。

節(ふし)も、そのひとつです。
木材に見られる丸い模様のような部分は、かつて枝が生えていた場所。工業製品の感覚で見ると「傷」や「ムラ」に見えるかもしれませんが、木にとっては生育の痕跡です。

どんな環境で育ったのか。
どの方向に枝を伸ばしていたのか。
日当たりや風の影響はどうだったのか。
そうした時間の積み重ねが、木目や節として現れてきます。

つまり木は、一本ごとに“個性”を持っている素材です。
もちろん、用途によっては均一さが求められる場面もあります。
けれど、木のばらつきは単なる品質の不安定さではなく、自然素材ならではの特徴でもあります。
鉄やプラスチックのように、同じものを大量につくることを前提とした素材とは、そもそもの成り立ちが違うのです。

見方を変えれば、「傷」に見えていたものが、その木だけの表情に見えてくる。
そんなところも、木という素材のおもしろさかもしれません。


木は、切られてからも“動いている”


形成後に形が変わりにくい鉄やプラスチックと比べると、木は少し特殊な素材です。
伐採され、建材や家具になったあとも、まったく変化しなくなるわけではありません。

その理由は、木が湿気を吸ったり、放出したりする性質を持っているからです。

空気中の湿度が高ければ水分を吸い、乾燥すれば水分を放出する。
この性質を「調湿性」と呼びます。

この特徴があるからこそ建材としてとても優れているとも言えるのですが、実は扱う側にとっては難しさにもなります。
水分量が変わると、木はわずかに膨らんだり縮んだりするからです。
その結果、
 ・板が反る
 ・ひび割れが起きる
 ・わずかにねじれる
といった変化が起こることがあります。

木が反ったり割れたりするのは、欠陥ではなく、木が本来持っている性質のひとつです。

もともと生きていた素材だからこそ、環境に合わせて変化する。均一で変化しない工業製品とは違う、木ならではの特徴です。

だからこそ、木を扱うには、その性質を理解したうえで付き合う必要があります。


扱いが難しいからこそ、技術が生まれる

軽くて、強くて、加工しやすい。木はたしかに優れた素材です。

けれど、その一方で、一本ごとに個体差があり、湿度によって動く。工業製品のように、いつも同じ状態でいてくれる素材ではありません。扱う側からすれば、なかなか難しい相手です。

だからこそ、人は昔から木の“クセ”と向き合ってきました。

大工や職人の世界では、「木を読む」という言葉があります。
木目の流れを見る。
どちらに反りやすいかを考える。
どの場所に使うのが適しているかを見極める。
同じ木材に見えても、すべてが同じように扱えるわけではない。木の性質を理解し、その特徴に合わせて使い方を変える。そんな知恵が積み重ねられてきました。


そして現代では、その“勘と経験”の世界に、科学や技術も加わっています。

たとえば木材にとって重要な指標のひとつが、「含水率」です。
「含水率」とは、木の中にどれくらい水分が残っているかを示す数字で、このばらつきが大きいと、反りや割れ、変形の原因になりやすくなります。

院庄林業の「匠 乾太郎(たくみ かんたろう)」は、まさにそこに向き合った木材です。

一般的な無垢材では、乾燥による割れを逃がすために「背割り」と呼ばれる切れ込みを入れることがあります。
木が乾く過程で内部に力がかかり、そのままだと割れや変形が起きやすいためです。

一方、「匠 乾太郎」は独自の乾燥技術によって含水率15%以下を実現し、木の動きをできる限り安定させた無垢ヒノキ材。
背割りを必要としない構造材として開発されました。

“木は動く”という性質そのものを消したわけではありません。けれど、その性質を理解し、技術によってコントロールしようとする。
自然素材の難しさと、真正面から向き合った結果とも言えるかもしれません。

木と付き合う技術は、昔も今も、進化し続けているのです。


木が選ばれ続ける理由

鉄やコンクリート、ガラス、樹脂。
現代には、高性能な素材が数多くあります。

均一な品質、大量生産、強度や耐久性。
ある性能だけを切り取れば、木より優れた素材はいくらでもあるでしょう。

それでも木は、今も建築や家具、内装材として選ばれ続けています。
その理由は、ここまで見てきたように、木が単なる“昔ながらの素材”ではないからです。

軽くて強く、加工しやすい。
熱を伝えにくく、湿度にも反応する。
均一ではないからこそ、一つひとつに個性がある。
扱いにくさも含めて、ほかの素材にはない魅力を持っています。

そして木には、適切に使えば長く役割を果たせるという一面もあります。
このテーマについては、以前のWEB MAG「法隆寺を支えるヒノキと建築技術」でも触れましたが、1300年以上現存する法隆寺は、その象徴的な存在かもしれません。

また、木は成長の過程で二酸化炭素を吸収し、炭素を内部に固定する素材でもあります。
こうした環境面での可能性や、現代の木造建築の広がりについては、WEB MAG「木造建築の未来」でも詳しく紹介しています。

古くから使われてきた木材は、今もなお、新しい価値が見いだされている。

木が選ばれ続けている理由は、単なる性能の話だけではないのかもしれません。
自然素材ならではのクセや個性も含めて、人はずっと、この素材と付き合い続けてきたのです。